野菜物語/さつまいも・薩摩芋
2016.9.10(土)
さつまいもの物語
サツマイモというと、一番、印象的な思い出は、保育園に通っていたとき、落ち葉を集めて、銀紙に包んで焼き芋にしてもらった記憶。
あの時のなんとも言えない、待ち遠しさと、灰の中からイモを取りだして、少し表面が焦げながらも、「ハフハフ」しながら、食べた熱いサツマイモの思い出が今も忘れられない。
今も落ち葉が集まっているところをみると、サツマイモ焼きたいなと思ってしまうのは、私だけだろうか?
さて、数々、人類を救ってきた作物がありますが、このサツマイモもまた、人類の発展に大いに貢献してくれた作物の一つです。
日本でも、飢饉での餓死者がなくなったり、世界的に見ても、サツマイモの栽培を始めたところは人口増加が起こるというようなデータもあります。
日本には、サツマイモを伝えた人が神として祭られている神社もあるくらい。たくさんの人々を救ってきたサツマイモの物語を見ていきましょう。
■起源地はどこ?
さつまいもの起源地は、メキシコからペルーまでの中南米の広い地域が起源地とされています。最も古いものは、ペルーの海岸のチルカ谷の遺跡から出土したもので、推定一万年前~紀元前8000年とされています。
現在は、全世界で3000~4000くらいの品種がつくられているといいます。
しかし、起源地のメキシコ、ペルーでは、その後、それほど、サツマイモ栽培は広がらず、じゃがいもやトウモロコシのような歴史的な主要な作物にはなりませんでした。
■さつまいもは、どうやって世界にひろがったの?
サツマイモが、世界に広がっていった経路として3つのルートがあるとされています。
①「バタータ・ルート」:15世紀~16世紀に伝わる
コロンブスが新大陸到着後、ヨーロッパに持ち帰り、その後、ポルトガル人によってアフリカ経由でアジアまで伝えられた。
ちなみに、新大陸からヨーロッパに持ち帰られたサツマイモは、冷涼な気候のヨーロッパでは定着しませんでした。
その数十年後に遅れて新大陸からやってきたジャガイモのほうが、冷涼なヨーロッパに気候に合い、社会を支える作物としての位置を確立しました。
ヨーロッパを通り越し、アフリカ、アジアでサツマイモは、社会を支えていく作物として大きな役割を果たしていきます。
②カモーテ・ルート:15世紀~16世紀に伝わる
スペイン人が当時、植民地であったメキシコから、同じく植民地のフィリピンに運んだルート
③クマラ・ルート 3000年前(紀元前1000年)頃に伝わる
南米から南太平洋の島にわたったルート。(マルケサス、ハワイ、ニュージーランド、ニューギニア、フィリピンなどに伝わった)
このルートは、人が意識的に運んだのか、海流などで運ばれたのか結論がでていないようです。
■日本へはどうやって伝わったの?
コロンブスがサツマイモをヨーロッパに持ち帰ってから、約100年後の1597年、中国の福建省から宮古島に持ち込まれたのが最初。しかし、そのときは、宮古島から出ることはなく、1605年の琉球の野国総管が福建省から芋づるを持ち帰ったものが、沖縄全島にサツマイモ栽培が広がった。その後、1609年に鹿児島に伝わります。
江戸時代、幕府は1734年にサツマイモを正式に薩摩藩から江戸に導入し、甘蔗先生で有名になった青木昆陽が栽培試験をし、関東への普及を広げていく役割を果たしました。その後、サツマイモは、東北地域にも拡大していきました。
■サツマイモが日本に入ってきてどうなった?
もともと、日本原産の作物は、22種類ほど。現在出回っている作物は、ほとんどが、海外からの導入されたものです。
その中でも、紀元前数世紀に稲作が導入され社会が大きく変革しました。日本の農業史上だけでなく、日本社会や文化にも最も影響を及ぼしたのが稲作でした。
それまで焼き畑などを行っていたものの、日本特有の火山灰土での生産性は低く、水を張ることで、火山灰土特有のリン酸が吸えない状態を克服し、イネの生産性の高さなどとも相まって、九州から、東北に向けて野火が広がるように瞬く間に全国へと広がっていきました。イネの広がりと共に、人口が増加し、文化を形成していったのです。
そして、サツマイモもまた、稲作に次いで影響を与えた作物といえるでしょう。
戦前、戦後、化学肥料や大規模な土壌改良がおこなわれるまで、日本では米以外の作物の生産性は極めて低かったのですが、
その中にあって、サツマイモは、やせた土地でも収穫でき、天候などの災害に強く、手間がかからないということで、他の野菜の生産性の低い日本の土壌にあっても、安定的な生産性を誇りました。
江戸時代中期までは、稲作は広がっているものの、イネは、日照りや冷夏、虫害などに弱く、凶作の時は、大規模な飢饉が発生し多くの餓死者をだしました。
特に、イネの害虫による被害が大きかった享保飢饉(1732年)では100万人が餓死をしたとされています。
そういった流れの中で、先の青木昆陽のサツマイモ導入の流れに続いていきます。
すでに、サツマイモが普及していた鹿児島では、享保飢饉の時、そして、それ以降も餓死者をださなかったといいます。
1721年~1880年までの160年間の人口変化をみると、サツマイモを常食していない地域では、人口が2.4%減少したのに対し、常食の一部にしている地域では、14.3%にも増加しています。
明治維新を推進した4藩(薩摩、長州、土佐、肥前)は、サツマイモを常食としており、安定した食料生産を基盤にして、社会基盤、経済などを整えていたことが、明治維新の推進力になったともいわれています。
戦後の食糧不足の時代には、一人当たりの消費量は80㎏になり、(現在のコメの消費量60㎏よりも多い)。まさに、サツマイモのおかげで、命を長らえたと言えなくもありません。
しかし、戦中、戦後、味よりも、できるだけ大きくして量を食べることを重視したため、あまりおいしくない状態で食べていたそうです。それもあってか、多くの日本人が戦後、サツマイモを食べることを嫌厭したといいます。
生産量や消費量は落ちたものの、現在では、非常においしい品種が開発されていて、食卓をにぎわしているのも事実ですね。
■さつまいもの消費量って?
日本は戦後、一人当たりのサツマイモの消費量が最高で80㎏にも及びました。
年間1人当たりの消費量は、 FAO(2003年)の統計によれば
ソロモン諸島の176.7kg ブルンジ116.2kg 、ルワンダ97.3kg 、ウガンダ84.2kg 、中国36.8kg と続き、日本は6.5㎏となっています。
日本の戦後のもっとも食料が不足していた時期の消費量が80㎏ですから、ソロモン諸島176㎏、そして、東アフリカの消費量がどれだけ多いかわかりますね。
■世界の生産量はどうなってるの?
サツマイモの世界の生産量(2014年度)をみてみると
1位の中国が70%をしめており、2位のナイジェリア、3位のタンザニアともに3%ほど、
世界の生産のほとんどが中国で行われている。アジア、東アフリカが主な生産地になっています。
日本の生産量などの推移をみてみると 作付面積だと、昭和24年の44万ヘクタール。
現在では、4万ヘクタールほどなので、最盛期の10分の1未満になっています。
収量が多かったのは、昭和30年の718万トン 現在は、100万トンほど。最盛期の7分の1ほどです。
反当たりの収量は、明治11年 560㎏ 一番生産量の多かった 昭和30年で1910㎏
平成27年 2700㎏ 栽培技術や品種などの改良で確実に上がっています。
コメの生産量が、反当たり600㎏とすると、2700㎏というのは、驚異的な生産性ですね。
■さつまいもの利用のされ方?
日本の戦後のように、また、発展途上国の食料をまかなう目的での、食用としての需要は全世界的に減少してきています。国の経済が発展するに伴って、食の多様化などが起こっていることがその原因です。
逆に、デンプン用(ジュースなどの甘味源、春雨、くずきりなど)、飼料用、おやつ用、御酒類(焼酎、ビール、ワインの原料)などの需要が増しています。
■サツマイモって栄養たくさん!!
サツマイモには、エネルギーになるデンプン、ビタミンC、カリウム、カルシウム、リン、鉄、カロチン、ビタミンB1、B2、E・・・などもたくさん含まれています。
セルロース、ペクチンといった食物繊維も多く含まれており、たんぱく質、脂肪などを別の形で補えば、完全食になるともいわれています。
便通改善効果
切ったときにでる白い液の中に含まれるヤラピンという成分は、緩い下剤の効果もあるのと、さつまいもの中に含まれるセルロース、ペクチンといった食物繊維の相乗効果で便通の改善ができます。
また、サツマイモには、様々な機能性があることが解明されており、体内で老化、発がんなどを引き起こす脂質過酸化反応やラジカル発生反応を抑制する機能(抗酸化能やラジカル消去能)があることが知られています。アントシアン系色素を含み、紫色の肉色を持つアヤムラサキでは特にその機能が強いということです。
最後に
サツマイモをめぐる壮大な物語を調べていて、本当にワクワクしました。
今、目の前に何気なくある作物たちが、多くの時代をへて、食べ続けられ、とり続けられ、陸を渡り、海を渡り、現在の姿になり、我々の食卓にならんでいることを思うと、この一個のサツマイモの深さ、重さ、貴重さ。まさに人類の文化遺産だなーと改めて感じました。
そんな物語を感じながら、食するサツマイモは、さらにおいしいのではないかと思いました。そろそろ、サツマイモの季節。
作ってくださった農家さんの物語と共に、たべるのが楽しみです。
■参考文献
・品種改良の世界史(作物編) 鵜飼保雄 大沢良
・サツマイモの絵本(農文協)
・サツマイモMini白書(3.0)日本いも類研究会
・サツマイモ 亀田龍吉
・いも 見直そう土からのめぐみ 星川清親 編
・サツマイモの遍歴 塩谷 格